歯科医院経営の本質

歯科業界の明治維新の始まり

大きく変貌する歯科医院経営

ここからお話しする内容は、もしかするとあなたにとってちょっと厳しい現実であり、心理的に受け入れがたい内容かもしれません。しかし、社会や業界の厳しい現実は等しく皆に降りかかります。従ってそれはチャンスの始まりでもあります。ですから少しだけ心の準備をしてからお読みください。

今から考えると、2000年前後の時期はこれまでになく、歯科医院経営が大きく変貌する端境期でした。少し大げさに言えば、江戸時代から明治維新に移行したようなものです。

20世紀後半に歯科界で新しく登場したものには、光重合式接着材(光で固める歯の詰め物)、セラミックやチタン素材の歯科応用(差し歯や入れ歯など)、歯科用レーザー、デジタル線などがありましたが、それは機器や材料の進化であって、歯科医院の経営自体の変化はとても緩やかで、基本的に保険診療+自費補綴(入れ歯・差し歯)の時代でした。したがって歯科医院経営は年々厳しくなっていると言われながらも、1990年代までは技術さえ覚えれば、将来への生活基盤は半ば約束されたようなものでした。

ところがご存知の通り、1990年代に4本あった12歳児の虫歯本数は、2014年の時点で、わずか1本にまで減少しました。8020(80歳で20本以上の歯が残っている状態)の達成率もこの25年間で8%から38%へと約5倍に増加しています。すなわち虫歯と歯周病の需要が大幅に減少しているわけですが、歯科医院の通院理由の9割が虫歯、歯周病、補綴ですから、従来型の治療をベースとしたやり方で医院経営を将来に渡って成り立たせて行くことが非常に困難であることは、院長であるあなた自身が誰よりもご実感されていることと思います。更に追い打ちをかけるように保険点数の抑制、日本経済の停滞、医院間競争の激化などの外部環境の変化により、今世紀に入って歯科医院経営は差別化を迫られるようになりました。つまり特色のある医院経営をしていかないと生き残りが難しくなってきたのです。次に列挙しているのは、2000年ごろから顕著になってきた歯科医院の差別化戦術です。

  1. 自費の主役はセラミッククラウンからインプラントへ
  2. 十分な予算をかけたホームページ制作および広告による自費患者の囲い込み
  3. 自費のカウンセリングを行うトリートメントコーディネータースタッフの育成
  4. 経営コンサルタントの活用
  5. 増床や移転によって歯科医院を大型化
  6. 少子高齢化による訪問歯科診療への取り組みが活性化
  7. メンテナンス保険診療による歯科衛生士の活用
  8. 歯周病治療の専門性強化
  9. 歯列矯正を実施する一般開業医の増加
  10. 保育士や栄養士が在籍する小児歯科
  11. 夜間診療および日曜診療の実施
  12. 内装や医院パンフレットにコストをかける医院が増加
  13. 歯のホワイトニングをメインとする医院の登場

2000年以降、近隣の何処よりも早い時期にこれらの差別化施策を徹底した医院は成長曲線を描いていくこととなります。このような差別化施策がまだ一般的では無かった頃に、勇気をもって始めた院長は、周囲の開業医達から儲け主義と思われたり、上手く行くわけが無いと噂されることが少なくありませんでした。

後発で真似をする差別化はもはや一般化

やがて結果が出ていることが知れ渡るようになると、こぞって真似をする開業医が増えていきます。ところが随分後になって模倣しても、それは差別化ではなく、もはや一般化であり、期待する成果を出せません。差別化とは周りがやっていないことをすることです。その実行には勇気がいります。ですから多くの人は人と同じことをしようとします。開業医の中で一定の成功ラインといわれている年商1億円以上の歯科医院はわずか4%しか存在しません。これらの医院の院長先生の多くは、他の院長先生がやっていないことを、早い段階からリスクを取って行った方達です。またユニット3台以下で年商が数千万円の小規模歯科医院であっても、完全自費で成り立っている場合は、人件費や賃料などの固定費が極端に少なく利益が残りやすいため、余裕を持った経営がしやすいでしょう。

9割の歯科医院は従来型の医院経営をしているか、成功者のフォロワーになっています。カリエスの罹患率が依然として高い一部の地方では、従来のやり方でもまだ通用しています。しかしこのような地域は中期的に人口減少による過疎化が急速に進みますから、将来への不安は少なくないことでしょう。ところが近年になって、勝ち組といわれている歯科医院でさえも、これらの差別化施策を取り入れるだけでは十分でなくなってまいりました。成功されている院長先生方からも「それなりに順調には来ていると思うが、今後は現状維持すら困難であることが明白」というお話をよくいただきます。インプラントは競争過多とイメージダウンにより症例数が減少しています。訪問診療は保険単価が大幅に下がるとともに不正監査が厳しくなりました。

メンテナンスは元々保険では認められないルールでありながら、地域による解釈の差異により保険の収益源にしていた医院もありましたが、ついに2015年1月に厚労省と経産省それぞれから通達文章で「予防メンテナンスは療養の給付に該当しない」ということが明文化されました。つまり歯周病状態の歯茎の処置に対しては健康保険をつかうことが出来るものの、健康な歯茎に対して予防を目的とする場合には健康保険をつかってはならず、自費診療にしてくださいということになります。これに対して院長先生の中には歯周病にかかっていない成人はほとんどいないので、従来通りメンテナンスには保険請求が出来るという主張をされる方もいらっしゃいます。

しかし「歯周病検診マニュアル2015年」では、歯肉縁下が3mm以下の場合は、どんなに歯石が付いていても、健常な歯茎と見なされ、歯周病は歯茎縁下に4mm以上のポケットがある場合とするということが定義されたことで、レセプト(医療機関が市町村や健康保険組合等に請求する医療報酬の明細書)の差し戻しや指導が入るケースも増えてきました。このような見解は院長にとって保険診療報酬を脅かされることにつながるため、もしかすると受け入れがたく信じたくない気持ちがあるかもしれません。ここで私がお伝えしたいのは法律や保険制度の解釈の正当性ではなく、財政難に陥っている日本経済において、元々健康保険には含まれないと定義されている予防処置や健康診断などは遅かれ早かれ保険請求の取り締まりが年々厳しくなるという見通しから目を背けないことが大切であるということです。日本テレビで2014年に放送された『ネプ&イモトの世界番付』では世界中の歯科医院の中で最も通院回数が多い国が日本と紹介されていました。歯科医の平均技術レベルでは恐らく世界最高峰にあたる日本の歯科医院が保険点数の制約によって、治療が中々終わらないという事態になっています。そこに納得できない風潮がメディアや生活者サイドで膨れ上がってきています。

日本経済新聞2015年9月17日付朝刊の1面には「歯医者なぜ長引く供給過剰、無駄な治療も」という特集が掲載されていました。

都内の30代の男性会社員は通院している歯科医の言葉に首をかしげた。「次はいつ来院できますか?」。虫歯の治療は終わったはずだが……。歯科医いわく「歯周病の疑いがあります」。結局、治療を続けることを決めた男性は「いったん歯医者にかかると、なかなか終わらない」と苦笑する。神奈川県で開業する50代の歯科医は「経営のために一人でも多く患者を診なければならない。すぐ治療の必要がない虫歯や歯周病で通院を長引かせるケースはある」と打ち明けた。

これらの記事に代表されるように、患者側もリコール(定期検診)は「歯科医院が儲けるためではないか?」というようなことを勘ぐる方が増え、現代人の忙しさと相まって一昔前の患者さんほど素直にリコールに応じない傾向にあります。

著者プロフィール

株式会社エイ・アイ・シー(ホワイトエッセンス本部)
代表取締役 坂本 佳昭

日本最大の審美歯科チェーン「ホワイトエッセンス」の創業者。最新刊「院長依存から脱却できる医院組織のつくり方」を始めとし、執筆、取材、講演実績多数。

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